乙亥会の代表である鈴木宗景に平曲をご指導頂いている鈴木まどか先生が
荻野検校顕彰会と共催されている『平曲と平曲講座』
12月14日、国立博物館の応挙館で開かれるのも今年で3度目となります。
今回も乙亥会は供茶と呈茶を担当させて頂きました。
会の様子をまどか先生が纏めて下さいましたので
有難く掲載させて頂きます。
昨年と同じく12月14日の開催ということで、
旧暦と新暦のことはさておいて、
討ち入りの供茶から始めました。
討入があった日、吉良邸では茶会が行われており、
茶会を主催した山田宗徧は
平家琵琶を57面(くらい)製作した茶人なのです。
一説に、山田宗徧は茶事の合図の「鳴り物」に
平家琵琶を用いたとも言います。
それで、供茶の始まりの合図として、
平曲の「秘曲の手」のうち
「七撥(ななつばち)」と呼ばれる部分を、
銅鑼などを用いる時の「大小大小中中大」に見立てて強弱をつけて弾きました。
飽くまでもイレギュラーの試みです。
供茶(くちゃ)は真台子(しんだいす)に皆具で点て、床の間の桂籠(かつらかご)の横に備えました。討入後、吉良上野介のみしるしの代わりに四十七士が掲げたのが、
茶会で用いられていた桂籠と言われています。
語りは「蘇武」。
胡国に潜んでいた蘇武と四十七士の思いが重なった気がしました。
茶事は、いつもお世話になっている乙亥会(おといかい)社中にお願いしました。
応挙館も3回目。
水屋といっても水道は外にしかなく、電源も限られている中、
手際よく時間ピッタリに収めて下さいました。ありがとうございました。
今回の句組には、
平曲の規範譜であり教則本でもある平家正節(へいけまぶし)二之上・二之下(全12句)から
5句を選びました。
「蘇武」は平家物語巻之二。
続いて平家物語巻之三から「足摺」を、入澤美榮子師にお願いしました。
素朴で説得力のある語りを、じっくり拝聴することができました。
お待ちかねのお弁当は亀戸升本の「七福」。
選挙のために注文が多かったとのことで、配達の方も大変そうでした。
お弁当の途中で、応挙館茶会ボランティア経験者に応挙館の説明をお願いしました。
応挙館の歴史や襖絵の見方などを拝聴し、あらためて意義深い空間で開催できたことに感謝しました。
平家物語の一部始終を語る「一部平家」は、一日(百二十句本の)四句ずつ、
約三十日間で語り進めたという記録があり、百二十句本の句切れを利用した可能性が高いです。
けれども浅見氏は、平家正節十之上下までで120句になることを指摘されました。
祇園精舎の扱いや、正節成立年代から平家正節120句を前提にするのは難しそうですが、
簡略版一部平家と考えることは可能です。
全句が「真」、正節120句が「行」、
平家物語巻之一~巻之十二までを1句ずつ含む「正節一之上・一之下」が「草」といったところでしょうか。
大きなヒントになりました。御礼申し上げます。
続いて、古川久美子師が「導師」、私が「脇」で、
平家物語巻之五「文覚強行(もんがくあらぎょう)」を連平家(つれへいけ)で語りました。
昨年は平家琵琶は導師の一面だけという試みにしまして、楽といえば楽だったのですが、
語り手は居心地が悪く、今年はそれぞれ琵琶を構えて語りました。
連れ平家は、すでに太平記に覚一検校と弟子の真一が連平家をしたという記述がありますが、
他の記録は少ないです。
幕末には、先祖が藩主の前で一人で語るのを固辞したところ、
藩主の提案で藩主との連れ平家になったとあり、その後に晴眼者たちが連平家の稽古をしています。
琵琶は一面だけなのか、その理由は「一面しかない」のか、「まだ琵琶を習っていない」のか、
「一面が最適だから」なのかも不明です。
申し合わせを入念に行ったのか、その日の座の余興的にぶっつけ本番で試みたのかも不明です。
古川師や他の相伝者と、ゆっくり試みて行けたらと思っています。
「巻通し」は呈茶の茶道具で補完。
巻之一・殿上闇討は茶杓・銀竹。
四・鵺は抹茶・大内山(松倉茶舗)。
六・祇園女御は香盒・打出小槌。
七・青山は琵琶棗、
九・敦盛最期は茶盌・笛、
十・横笛は懐紙・高野槇、
十二・泊瀬六代は菓子・泊瀬しぐれ。
続いて平家物語巻之八「征夷将軍院宣」を私が語りました。
頼朝が「義仲や行家が我が物顔なのは奇怪」などと言い終わったところで、
カラスがタイミングよく「ほぅほぅ」と相槌を打ってくれました(苦笑)。
それから平家物語巻之十一「鶏合(とりあわせ)」を古川久美子師が語りました。
古川師の力強い語りは、湛増の決意や、壇ノ浦の緊迫感をあらわすようでした。
しめくくりは入澤師による「上日(じょうにち)」の指導。
私はこういうときに初心者向けに五線譜的に語りますが、入澤師は平曲の伝承通りに手本を示しました。いろいろなタイプで語り体験ができるのもまた一興ですね。
撤収作業も皆さん要領が良くなり、15時半頃には応挙館を出ることができました。
多くの皆さんのお力添えで、今年も、どっぷり平曲に浸かる催しが実現できました。
ありがとうございました。
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