6/12_14 whale's song

床 ふみくらの庭や緑のしたたれる

花 浜木綿

花入 浜田庄司壷

 

 

写真は、この日のお稽古で初使いをした茶碗です。

十三代 中里太郎右衛門作の唐津焼。

 

何か銘を、ということで

二歳の娘に「何に見える?」と聞いたところ

「くじらさん」という答えが返ってきました。

白い釉薬がたなびく様が

鯨が潮を吹いているように見えたそうです。

 

実際、この茶碗のように

唐津焼の口縁上部のみに鉄釉を塗ったものを皮鯨と呼びます。

鯨の皮と脂肪の境に見立てているわけです。

 

そんなことは娘は知る由もないのですが

丁度良いので鯨にしようと。

ただ、「鯨」そのままでは味気ないので

「鯨音」としました。

 

鯨音とは、鯨の鳴き声のこと。

また、広く響き渡る梵鐘の音も意味しています。

 

その元となっているのが「鯨鐘」という言葉。

鯨鐘とは、梵鐘の別名です。

他にも、華鯨、巨鯨という呼び名もあります。

 

その由来は・・・

 

龍の九子(9つの子供)の一つである蒲牢という伝説上の生き物がいるのですが

その蒲牢の鳴き声が鐘に似ていることから、

日本では平安中期より梵鐘を蒲牢と呼ぶことがありました。

 

この蒲牢、鯨に襲われると大きく鳴くのだそうです。

そこで、鐘の音を大きく鳴らすために蒲牢の姿を鐘の上に作り

鐘を打つものを鯨になぞらえるようになってきました。

因みに、日本では蒲牢という生物が馴染まなかったからでしょうか

後にこの蒲牢の部分を竜頭と呼ぶようになりました。

時計のゼンマイ巻にもその名前が使われていますね。

 

そして、そこから更に転じて

鐘そのものの大きさや音の大きさも相まって

梵鐘そのものを鯨鐘と呼んだり

その音を鯨音と呼ぶ動きが出てきました。

また、鐘自身の変化に富むところから

美称としての華鯨という名も生まれました。

 

華鯨という称は鎌倉時代以降、

特に安土桃山時代に集中して見られるそうです。

蒲牢(竜頭)の形が技巧を凝らしたものになってきたのも

華の字が多用されたのも安土桃山時代ですから

当時の華麗を好む世相が伺えますね。

 

 

こういった流れは全て中国の故事や伝説を元にしているのですが

竜の子を鯨が襲うわけですから

鯨が伝説上の動物にも匹敵する

神格化された特別な存在であることが分かります。

日本でも海や漁業の神様として古くから大切にされてきました。

 

広い海をゆったりと回遊する大きな鯨。

たまには鯨になった気持ちで

心を広く持ってみることも大切かもしれません。

 

人の評価を気にしてクヨクヨしたり、

逆に他人に批判的に、攻撃的になっていると気づいた時は

そんなものは自分の得にならないことに目を向け

鯨のように、思い切り「プシュー」と吐き出してしまいましょう。

それは、お寺の梵鐘を撞く行為ともリンクしています。

 

そして、余分なものを存分に吐き出した後は

お茶がいつもより美味しく感じられるはずです。

 

この茶碗はそんなことを教えてくれています。